kazasiki's blog

プログラミングとかVRゲームとか

VRゲームにおける近接戦闘のデザイン

これはただのVRゲーマーの雑記です。筆者はVRゲームの開発には全く関わってないので一つの考えとして読んで頂ければ。

ボクシングシミュレーションであれ剣戟アクションゲームであれ、近接戦闘を含むVRゲームではいくつか共通する問題があります。

1つは、プレイヤーには実際の感触がないことです。

例えば、敵を殴るにしてもそれが当たったのか当たってないのか、クリーンヒットしたのか掠っただけなのかはプレイヤーにはわかりません。通常は感触で理解できる筈の情報をダメージエフェクトなどでわかりやすく伝える必要があります。プレイヤーが殴られる場合も同様ですが、こちらは更に分かりづらくなります。

ボクシングシミュレーションのようなゲームを考えてもらうとわかりやすいでしょう。敵を殴る場合、通常は殴った箇所はプレイヤーの視界に入っています。なので、当たっている場所を実際に見ている事が多いです。であれば、当たり判定のエフェクトなどを表示できます。

逆に、敵から殴られる場合はどうでしょう。通常は、敵から殴られているところをプレイヤーは見ていません。ボディ(お腹)を殴られているときに、殴られるボディをじっと見ていることは普通ないでしょう。顔であればなおさら分かりづらくなります。さらに言えば、VRに限らず一人称のゲームでは自分の当たり判定を自分で把握することが難しく、これがさらに事態をややこしくします。避けれているつもりが当たったことになっているという事態が頻発します。

この問題に対する解決策の例として、そもそも相手の攻撃を紙一重で避けるという設計にしないのが最も簡単な対処になります。例えば、相手の攻撃を顔に対する左/右、ボディに対する左/右の四種類に大雑把に分けてしまって、必ず防御が必要なようにするという手があります。プレイヤーの防御は所定の場所に手を置くことで可能なようにしておいて、防御ができてるときはシールド的なエフェクトを出すなどといったイメージです。

逆に、あえて回避が必要なようにするのであれば、攻撃に大きめの事前モーションを置くか、攻撃自体をゆっくりにするのが良いでしょう。大きめに回避する猶予をプレイヤーにきちんと与えましょう。判定の把握が難しいという問題は残りますが、プレイヤーに対してはまだ納得感のある体験になります。リアルな体験ではなくなりますが、ゲームとしてストレスのない体験を与えることも同じくらい重要です。

例えば、「Knockout League」は攻撃が上下左右に単純化されていて防御しやすくなっていて、逆に避ける必要がある場合は必ず大きな事前モーションがあります。「Serious Sam VR: The Last Hope」は防御はできませんが、敵の遠距離攻撃がかなりゆっくりで避けやすくなってます。

そして問題のもう一つは、武器の重さが操作に反映されないことです。

VRゲームでは様々な武器を扱えますが、現実の人間が持っているのはコントローラです。例えば、両手剣のような大型の刃物を考えてみてください。これは現実であれば大人でも扱うのに苦労するほど重いものですが、VRであれば片手で難なく扱えます。また、実際の剣であれば相手の体に当てた時点で太刀筋が止まりますが、VRであればそのまま通り過ぎてしまいます。この時点で「リアルな近接戦闘」は絶対にありえません。

BONEWORKS」はこの問題に対して一定の解決策を提示しています。簡単にいうと「重い武器ほどゆっくりとしか動かないようにしておく」ということです。現実世界で持ってるコントローラーは重さに関係なく動かせますが、ゲーム内では重い武器ほどゆっくりとしか動かせません。なので、現実とVRで手や武器の座標がずれることになります。最初は強烈な違和感がありますが、しばらくすると慣れます。

これによって例えば、すばしっこい敵(飛びついてくる犬とか)には小型のナイフ、遅い敵(人とか)にはスレッジハンマーを使うという使い分けが成立します。また、このゲームでは重い武器は両手で持ったほうが早く動かせるという仕組みもあるため、重いものは自然に両手で持つようになります。

そもそも「リアルな近接戦闘」を志向しなければ、これ以外にもいろいろ方法はあります。例えば、iOSの名作ゲーム「Infinity Blade」のように敵の攻撃をまず防御して、その後に無防備になった敵を攻撃するような準ターン制と言えるようなゲーム性にする方法。または、そもそも防御も回避もほとんどできないようにしておいて、密集されないように距離をとりつつ、敵を各個撃破していくような大局的な立ち回りを楽しむゲームにする方法もあります。これらの方式であれば、こちらが両手剣をぶんぶん振り回せていたとしてもゲーム性に影響を与えません。

VRと聞くとなんでもできるような気がしますが、実際には様々な制限があり、いろんな工夫が必要です。VRゲームも色々遊んできた中で、語れるくらいには知見(?)が増えてきたのでまた機会があればこういう記事を書こうと思います。