kazasiki's blog

プログラミングとかVRゲームとか

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』を読んだ

Audibleで聞きました。この記事は本書の紹介というよりは読書メモみたいなものです。

本書で展開されるブルシットジョブの定義はこちら

ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

ブルシットジョブに従事している人を責めようとか、生産性をあげようとかそういう話ではなく、ブルシットジョブが何であって何でなくて、どのような問題を発生させてるのか、という話が主になります。面白いのは、ブルシットジョブに従事している人の精神への悪影響や負荷を慮るような内容になっていることです。ブルシットジョブの主要な問題の1つは、それに従事している人間の精神的苦痛であるということです。

本書のもとになっている小論は以下の記事で日本語訳が読めます。大体の趣旨は以下の記事でも理解できます。

himaginary.hatenablog.com

書籍の方では「我こそはブルシットジョブに従事している!」という人へのインタビューが豊富に載っていて、統計調査のデータなどもまとめられており、説得力があります。倫理的、神学的な話も長々と語られるので、そういった分野に明るくない人はその部分は退屈かもしれません。神学的な主張についてはキリスト教の話が主でありつつも、労働を美徳とする感覚は日本にも共通するものがあり、色々考えさせられます。

個人的に、(あくまでインタビューの一部の意見として)医者もブルシットジョブだといった意見があるのは面白かったです。事実上、医者は薬の自販機と化していると。平均寿命の伸びも医療の発達ではなく公衆衛生の改善の恩恵であって、医者よりもゴミ収集業者のほうが市民の健康に強く貢献しているとのこと。こういった視点はなかなか斬新でおもしろいですね。

ブルシットジョブ問題の解決策として、ベーシックインカムの話が出ています。とはいえ、著者もベーシックインカムが万能の解決策になるとは思っておらず、あくまでも「ベーシックインカムがブルシットジョブという問題を解決する可能性がある」程度の言及にとどまっています。

個人的におもしろいと思ったのはフェミニズム、特に家事労働論争の話にからめてベーシックインカムが語られていたことです。「家事労働に賃金を!」みたいな話は自分もそんなに詳しくないですが、主に専業主婦などが行っている家事について市場における価値を明確化するみたいな話がまず1つ。もう一つは、夫婦のうち夫にのみ賃金が発生している場合、夫婦の不仲やDVによって苦しい状況に置かれた妻は経済的な自由を著しく制限されてしまう、みたいな話です。

その延長にある話として、主婦にも労働にふさわしい賃金を政府や自治体から直接支給してほしいみたいな話があるわけです。とはいえ、専業主婦に限らず人は多かれ少なかれ家事労働をしているはずです。結局として家事労働に対して賃金を発生させた場合、その性質はかなりベーシックインカムに近いものになるというのはそれなりに説得力があります。

著者のデヴィッド・グレーバー氏はアナーキスト無政府主義者)です。ベーシックインカムは政府の権限を強化してしまうのでは?という反論に対して、それを明確に否定しています。普遍的ベーシックインカムの場合、政府はベーシックインカムの金額を調整する権利はあっても誰に支給するのかは選びません。それによって補助金や支援金の申請を受ける機関やそれを審査をする機関は不要になり、結果的に政府の権限は弱まるという見解です。

自分は↑に上げたブロク記事および小論が大好きで、事あるごとに人に紹介してました。様々な観点からの検証や補足を踏まえた上でこうやって一冊の本になってとても嬉しく思います。ぜひ皆さんも手にとって読んでみてください。